2012年6月15日金曜日

引き継がれるもの


宇野萬さん。


たった一度公演でご一緒しただけだけど。


その公演は、まことクラヴでの活動の中で1、2を争うしんどさだった。
作業が終わらず、毎晩ろくに寝る時間もなく、とうとう間に合わなくてYCAMに泊まり込み、深夜の暗い部屋でしんどさの余り一人絶叫しながら作業した。
もうこれで最後だ、二度とやるか、と思いながら。


朝になって不機嫌なまま会場に行くと、萬さんはいつも同じ飄々とした笑顔で迎えてくれた。
こんな事無理かも?というリクエストも、「やろう」と一言で言って答えてくれた。
萬さんが「やろう」というと何故かできてしまうような雰囲気になった。


自分でいっぱいだった私は、不機嫌さを隠そうともせず、そのまま本番を迎えた。
もう打ち上げも出たくないぐらい消耗したけど、萬さんのお店には行きたくて、少し遅れて打ち上げに行った。


オープンしたばっかりの萬さんのお店の壁には、すでにそれまでに訪れたアーティストのサインが書かれていた。
こんなとこに自分のサインなんて、と思っていたら、萬さんが
「この壁にはアーティストにしかサインさせないの。好きなとこに書いていいよ。」
と言ってくれた。

大好きな川野眞子さんのサインの下に小さく書かせてもらった。

今はもう閉店してしまったと聞いているのであのサインはもうないかも知れないけど、萬さんがくれた小さな誇りの事は忘れない。


その後何度かお会いして、その度に子犬のように走りよって感謝を伝えようとしたけれど、萬さんはそんなのさらっとかわしてふわりとどこかに行ってしまった。



最後にお会いしたのは、去年の5月11日、野和田恵里花さんの命日にきゅりあんで行われた公演の時。

萬さんが踊るのを見たくて、みんなでインプロする時間に客席まで迎えに行ったけど、
「俺はいいよ。ここで見てる」とまたふわっとかわされてしまった。
多分、体がきつかったのかもしれない。

結局きちんとお礼は言えないままだったけど、今私がまだこうして踊りを続けていられるのは、萬さんや恵里花さんやその他たくさんの先人達の与えてくれたもののおかげだ。


素敵な大人たちの、足元にも遠く及ばない私だけれど、言えなかったありがとうを踊りに込めていきたい。


萬さんのご冥福を心よりお祈りいたします。


2 件のコメント:

  1. 大切な思い出のお裾分けを、どうもありがとうございます。
    また一つ、吟子ママのことを好きになりました。
    また一つ、6.22が楽しみになりました。

    そいから。
    改めて、吟子ママの手と指の美しさを確認致しました。
    鎌倉さん、森下さん、吟子ママ。
    私のツボ手のお三方(笑)

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  2. 宇野萬、という素敵な人がいた、という事を知って頂けたら幸いです。

    6/22、がっかりさせないように全力で向かいます。ハンドクリームもよくすり込んでおきます。

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